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結納

僕は車に乗っていた。運転席には父親、助手席には母親が乗っている。父親はダブルのスーツ、母親は着物を着ている。車が向かっているのは彼女の自宅だ。僕は車の窓から見慣れた景色を見ていた。父親も母親も平静を装っているのか、緊張などしていないのかよくわからない。そんな自分が一番緊張しているのかもしれない。
彼女の自宅に着くとこれまた着物姿のママさんが出迎えてくれた。話ではチャイムを押すことになっていたのだが、ママさんも緊張していたのかもしれない。よく見るとパパさん、弟くんも出迎えてくれている。これは面倒なことになりそうだと思いながらも、気恥ずかしさと妙な嬉しさを感じた。彼女も僕と同じような表情を浮かべながらそのやり取りを見ている。車から降りると予想通りぺこぺこと挨拶のやり合いが始まる。時間は正午を少し過ぎている。汗が背中を伝っていく。
とりあえず入ろうと誰が言ったのかは覚えていないが、大きな荷物を持ち、父、母、自分の順に彼女の自宅へと入っていった。
部屋の中はエアコンをつけてくれていたようだがあまり涼しくは感じなかった。床の間のある部屋へ先に通された父親が準備ができるまで待っていてほしいとパパさんへ伝えていた。自分もあわててその部屋へ入り、ふすまをできるだけ丁寧にしめた。床の間は昨日変えたばかりの新しい畳の匂いでいっぱいだった。父と母の指示に従いながら協力して準備をする松竹梅やノシのついた袋をいくつか並べた。とても日本らしい品々だ。準備を進めながらエアコンの温度を下げ、風量を強くした。母親は着物姿で汗だくになっている。並べ方にもそれぞれルールがあるらしく、どれもこれも几帳面に並べられた。
二十分ほどして準備ができたので床の間から父、母、自分の順番に並び、母親が彼女たちを呼びに行った。
パパさん、ママさん、彼女の順で入ってくる。弟くんは今日は写真係のようだ。手にはデジタルカメラと使い捨てカメラが握られている。
まずは父親が今回の経緯を話す。とてもシンプルな言い回しだったが、緊張しているのか、うろ覚えなのを必死に思い出そうとしているのか、あまり流暢なしゃべりではなかった。それが終わると準備した品々の目録をパパさんに手渡した。パパさんは受け取った目録を黙読し、ママさん、彼女へと渡していった。父が目を通してくださいと言ったのがよかったようだ。どうも目録というものは当て字や崩した字が多く読むことが困難なようだった。
それを受けてパパさんが請書を母親に手渡した。母親に手渡したと思う。
それを受け取ったあと、父親が自分に指輪を彼女に渡すように指示してきた。
自分は父と母の後ろを通り床の間に飾られている婚約指輪の箱を手に取った。なかなかノシが外せず手間取ったが、無事に外すことができた。目の前に正座している彼女が左手を差しのべている。その手を取り、その薬指へ指輪を通した。
それで結納は終わったように思う。そのあとは大撮影大会だった。みんなが、いや女性陣がわいわいと写真撮影を楽しむ。どうも女性は自分が思うよりも写真を撮るのも、撮られるのも好きなようだ。男性陣はすでにうんざりした顔している。
そんなこんなで結納は終わった。あっという間だった。だけどやってよかったかもしれないと少しでも思えたのが幸いだった。